2024/07/16 17:05

完全に好みの問題ですが縫い穴を大きくあけたくない方もいると思います。店長もそのひとりです。菱目打ちではごく軽く打っておき、後から菱錐で突き刺して貫通させています。店長は”突き目”と呼んでいますが正式かどうかは分かりません。
縫い穴が多いと完全に手間ですが、きれいなステッチにしたいのでいつもやっています。財布などの表革になる部分や目に見える部分だけにしています。普段見えない所や内装パーツの薄い部分は菱目打ちであけるだけにしています。

菱目を小さくあけて手縫いしたシステム手帳
菱目を小さくあけたいとき
革が厚いほど菱目打ちを深く打たなければ貫通しません。昨今の海外ツールのヨーロッパ目打ちなどは根本まで太さが一定で深く打ってもそれほど大きな穴があくことはないのですが、以前使っていた国産の物は深く打つとかなり大きな菱目ができていました。菱目打ちが細身の場合あまり必要のない作業かもしれませんが、その時の癖で今も菱錐を使っています。糸が細い場合などに菱目の両端がステッチからはみ出すのが気になるのでそうしています。

左が海外製のヨーロッパ目打ち、右が国産火作り
小さくあける理由は主に3つです。
1・見た目の問題
2・糸の締まりが悪くなる
3・両面から打つ場合そもそも貫通させられない
1の「見た目の問題」はそのままです。特に細い糸を使う場合に菱目が大き過ぎると気になります。ステッチの両サイドに菱目がはみ出す感じがあります。革の切れてる部分が見える感じがします。
2の「糸の締まりが悪くなる」は菱目が大きすぎると糸を引いても戻ってしまって緩い縫製になるということです。もうひとつは、両面斜めステッチ(裏側も斜め)になるように縫うときに菱目が大きいと上手く斜めにできない気がしています。この縫い方では裏側のステッチの斜め感を糸が菱目の中で引っぱった状態でキープしています。よって菱目が大きいと固定力が下がる気がするのですが定かではありません。そもそも革の厚さもそれなりに必要な縫い方です。
3の「両面から打つ場合そもそも貫通させられない」とは、貼り合わせなどで、すごく革が厚くなった場合に両面から菱目を打つためです。両面から深く打ってしまうと貫通した場合に菱目がクロスして×のようになってしまうため、浅めに打って後から菱錐を使い厚みの中央付近でつながるように調整しています。
菱錐について

左から交換式ダイヤモンドオウル、国産汎用菱錐、国産高級菱錐
これらの問題解決に使う菱錐は何でもいいですが、太さが一定であまり変わらないものが使いやすいです。その意味でオウル部分が交換式の海外製ツールは最適だと思います。国産の固定式菱錐は根本に向かって太くなるものが多いので均一に研いであげることで使えます。
一般的?に菱錐を研ぐ場合は先端から4~5ミリ以降は刃の部分をつぶして切れを悪く仕立てます。それは菱錐を手に持って菱目をあけながら縫う場合に刺さりすぎて菱目を大きくしないためです。店長の”突き目”の用途でもこの仕立て方は有効です。予め目打ちによってあけてある菱目を広げてしまわないために少しだけ切れを悪くして使います。特に当店で扱いのあるダイヤモンドオウルの場合はキンキンに研ぎあがっていて先端が鋭利過ぎるので800番くらいのペーパーで撫でて扱いやすくしています。店長は指先が若干震えるので”突き目”をミスした時に致命傷にならない為でもあります。
ちょっとだけ実験してみました

2ミリ厚のヌメ革に3ミリピッチのヨーロッパ目打ちで軽く打ってから菱錐で貫通させたものです。0.4ミリの糸を使い裏も斜めになる縫い方をしています。赤いボールペンの印から左は深くまで打ったものです。下の写真がそれです↓

裏側までしっかり貫通するまで菱目打ちを叩いた方です。ステッチの上下に菱目がはみ出しているのが見えます。

今度は糸の太さを0.3ミリに細くしてノーマルの縫い方(裏が斜めにならない)をしています。軽く打ってから菱錐で貫通させましたが糸が細いので菱目のはみ出しが見えます。もう少し細かいピッチの菱目打ちを使うとはみ出しが目立たなくなるのかなと思います。赤い印から左は強く打って貫通させてから縫ったほうです。下の写真です↓

さっきより菱目のはみ出しが大きくなった気がします。革を曲げたりするとより目立つと思います。
あまり気にしない方には関係ない話ですが思いついたので書いてみました。使う糸がもっと太ければきれいに納まるかと思います。
細い糸で縫いたいけど菱目が大きすぎて上手くいかない方は試してみてください。